めまいとは
めまいを起こす病気は非常に多く、耳鼻咽喉科の病気で起こることもあれば、脳神経内科や一般内科の病気から起こることもあります。
身体のバランスは、主に内耳(三半規管、耳石)、前庭神経、脳幹・小脳により保たれています。さらに、視覚や筋肉・腱にある感覚受容器も、身体のバランスを保つ役割を担います。これらのどこかに障害が起こると、めまいが起こります。めまいが起こると、日常生活に支障が生じます。特に高齢者では転倒や骨折につながるため、より問題は深刻です。
内耳や前庭神経の障害で起こるめまいを末梢性めまい、脳幹や小脳の障害で起こるめまいを中枢性めまいと分類します。さらに、心臓疾患や精神疾患など、内耳や脳以外の原因でおこるもの(非前庭性めまい)、原因が不明のもの(めまい症)に分類されます。
内耳の障害で起こるめまい(末梢性めまい)は最も多く、めまい全体の約60%を占めます。良性発作性頭位めまい症(benign paroxysmal positional vertigo:BPPV)、メニエール病、前庭神経炎、めまいを伴う突発性難聴、内耳炎、薬物による内耳障害、外リンパ瘻、外傷などがあります。脳の障害で起こるめまい(中枢性めまい)は少ないですが(めまい全体の約10%)、命に危険を及ぼすものもあるため、いつも念頭に置いて診断する必要があります。中枢性めまいには、椎骨脳底動脈循環不全症、脳梗塞・脳出血、脳腫瘍などがあります。その他、めまいの原因として、薬物によるめまいがあります。内耳に対し毒性を有するストレプトマイシンやゲンタマイシン以外に、降圧剤や抗不安剤、睡眠剤などもめまいの原因となることがあります。また、片頭痛の患者さんも頭を動かすときなどにめまいを自覚します。うつ病や不安神経症の患者さんも多彩な症状の中にめまいが含まれます。
めまいが起こったら、まず上記の半規管や耳石器、前庭神経、脳、その他どこにめまいの原因があるのかを診断することが重要です。めまいの原因となる病気により、対処法や治療法が異なるからです。
めまいを診断するために重要な情報は、次の通りです。
- 問診:めまいが起こった時の状況、めまいが起こったきっかけ、めまいが起こってから治まるまでの時間、めまいと同時に起こった症状、などを詳細に伺います。
- 眼振検査:CCDカメラを用いて、眼に異常な動きが無いかを調べます。
- 聴力検査:めまいの病気には、めまいと同時に耳の聞こえに異常が生じる病気もいくつかあります。
- その他:必要に応じ、起立検査、中枢神経(脳)の検査、MRI・MRA検査などを行います。
めまいの原因となる病気
めまいを起こす代表的な病気には、以下のようなものがあります。
良性発作性頭位めまい症
めまいを起こす病気の中で一番多くみられます。典型的な症状は、寝ようとして頭を枕につけたときや布団から起き上がるとき、寝返りするときなどに回転性めまいが起こりますが、そのままじっとしているとめまいは数秒から数十秒で治まります。リンパ液で満たされている三半規管内部に耳石の粒子が紛れ込んでしまったことにより、頭の位置が変化するたびに回転性めまい症状が起こります。最も効果的な治療は、頭を一定の手順に従って動かすことにより、耳石の粒子を三半規管から追い出してしまう「頭位治療」です。自然治癒も多いですが、頭位治療を行うとより早く治癒します。
メニエール病
これも内耳の病気です。蝸牛(カタツムリ器官)内部はイオン組成の異なる内リンパ液と外リンパ液で満たされていますが、内リンパ液の量が過剰になる(内リンパ水腫)ことにより、聞こえの症状(難聴、耳鳴り、耳閉感)とめまいが連動して繰り返し起こる病気です。内リンパ液の量が過剰になる理由はまだ明らかになっていません。ストレスや自律神経の不調が関連しているのではと考えられています。典型的な症状は、まず片側の耳の閉塞感や耳鳴りで始まり、同日あるいは1~2日後に回転性のめまいが起こります。数十分から数時間でめまい発作が治まったら耳の閉塞感や耳鳴りも治まります。このような発作が繰り返し起こりますが、発作を繰り返す頻度やめまいの強さは人によりまちまちです。治療は、生活習慣の見直し(過労、睡眠不足の改善、ストレス対処)と薬が主体です。めまい発作が起こっていないとき(発作間歇期)は通常通りの生活が可能です。治療の目標は、めまい発作を繰り返す頻度を少なくすることです。このためには、発作間歇期の過ごし方が大切です。1~数か月に一度、定期的に受診していただくことが必要です。
椎骨脳底動脈循環不全症
脳に血液を送る動脈は、左右の頸動脈と左右の椎骨動脈があります。このうち左右の椎骨動脈は脳幹や小脳に血液を送るため、この血管の流れが一時的に不安定になるとめまいが起こります。血液の流れが不安定になるのは、動脈硬化や変形した頸椎(背骨)の圧迫により血管内部が狭くなることなどが原因で、高齢者に多くみられるめまいの病気です。脳幹や小脳への血液の流れが不十分となることによるめまいなので、めまいと同時に脳の症状(顔面のしびれ、視界が曇る、ろれつが回らなくなる、など)が起こることがあります。
突発性難聴
ある日突然片側の耳が聞こえなくなり、耳鼻咽喉科で聴力検査を行い片側の感音難聴であることがわかります(急性感音難聴)。この難聴が生じた原因が不明であるものを突発性難聴と言います。原因のわかるもの(後日判明するものもあります)には、メニエール病、外リンパ漏、ムンプス難聴、聴神経腫瘍、音響外傷などがあります。突発性難聴に罹った人のうち約半数の人は、発症時に難聴と同時にめまいが起こります。突発性難聴の治療は、ステロイド薬などの薬物治療を、めまいを伴う場合は安静と点滴、リハビリテーションを行います。突発性難聴に伴うめまいは軽症の場合も多く、薬物治療だけの場合もあります。
頭痛に伴うめまい
頭痛持ちの方や、ご家族(血縁関係のある方)に頭痛持ちの方がいらっしゃる方は、発作的にあるいは頭を動かすときなどにめまいが起こることがあります。頭痛薬などで治療することによりめまいも改善することが多いです。また、この病気は上述のメニエール病と合併することが多く、双方の病気に何か関連があるのではないかと考えられていますが、まだ詳細は分かっていません。
心因性めまい
うつ病や不安神経症などの精神的疾患では、さまざまな症状の一つとしてめまいを自覚することがあります。歩いているときよりもじっと座っているときに揺れがひどくなるとか、人混みや狭い空間(電車やエレベーターなど)でめまいがひどくなるなど、一般のめまい疾患では説明できないような特徴もあります。眼振検査などめまいに関する検査でも異常がみられないことが多いです。また、一般のめまい疾患(良性発作性頭位めまい症、メニエール病、前庭神経炎など)の経過中に、めまいに対する不安や気分の落ち込みが大きく、それらの疾患の経過に影響を与えている(治りが遅くなるなど)場合も、広い意味での心因性めまいと考えます。
外リンパ漏
鼻かみや重いものを持ち上げたときなど、圧力が変化した直後に内耳窓が破れ内耳にある外リンパ液が中耳腔に漏れることにより、めまい・耳鳴り・難聴などの症状が起こる疾患です。診断が難しく、診断的な手術により内耳窓を観察して内耳窓の破れを確認し診断に至ります。最近では、外リンパ液にある特殊な蛋白であるCTPを調べることにより、手術しなくても診断がつくようになりました。治療は、最初1~2週間は安静を保ち、症状が軽快しないなら手術(内耳窓閉鎖術)に踏み切ります。
遅発性内リンパ水腫症
メニエール病(上記)と同様の病態(内リンパ水腫)によりめまいと聴力の異常が連動して繰り返す病気です。メニエール病との違いは、もともと片側の耳に中等度~高度の難聴があることです。治療法は、メニエール病に準じて行います。
上半規管裂隙症候群
内耳にある三半規管は通常は骨に包まれています。上半規管裂隙症候群は、3つの半規管のうち上半規管の一部に骨が欠損している部分があるため、大きな音を聞いたときや、息こらえなど耳に圧力が加わる時にめまいが起こる病気です。耳のCTスキャンで上半規管の骨が欠損していることがわかります。治療は、耳栓や、鼓膜にチューブを留置します。症状が改善しない場合は、骨が欠損している部分を塞ぐ手術を行います。
聴神経腫瘍
内耳にある蝸牛や半規管で感知した情報を脳に伝える内耳神経に発生する良性腫瘍です。良性腫瘍であるため増大する速度は遅く(年間に2mm以内)、そのため症状は片側の難聴や耳鳴りが多く、めまいが起きる頻度は少ないです。MRI検査で、診断します。
薬による内耳障害
アミノグリコシド系抗菌薬(ストレプトマイシン、カナマイシン、ゲンタマイシンなど)、抗がん剤(シスプラチンなど)、利尿剤(フロセミドなど)は副作用として内耳に障害を及ぼすことがあります。聴覚に障害を及ぼす場合と、平衡機能に障害を及ぼしめまいを起こす場合があります。また、一時的な障害(回復することがある)と永久の障害(回復しない)場合があります。
加齢性前庭障害
内耳にある半規管や耳石器の感覚細胞、内耳神経、脳幹・小脳の細胞の加齢変化(老化)により慢性のふらつきや歩行障害をきたす病態です。精密平衡機能検査(カロリック検査、回転検査、ヘッドインパルス検査)により、平衡機能が低下していることを確認します。高齢者には上述した病態によるめまい(良性発作性頭位めまい症、椎骨脳底動脈循環不全症、メニエール病など)も多いので、それらのめまい疾患の可能性も念頭に置き診断する必要があります。
PPPD(持続性知覚性姿勢誘発性めまい)
2017年に国際的なめまい学会が提唱した疾患です。
- ふらつきや不安定感がほぼ毎日、3か月以上続く
- 立っているときや歩くときに症状がひどくなる
- 動くと症状がひどくなる
- 動いているものや複雑な視覚パターンを見るとひどくなる
- 大きなめまい発作が起こった後、上記のような症状が長く続く
等の特徴があります。めまいの検査で、ほかの病気ではないことを確認する必要があります。
その他のめまい疾患
- 起立性調節障害
- 脳脊髄液減少症
- 脳血管障害(脳梗塞、脳出血)
- 不整脈
等があります。